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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1063号 判決

第一審原告(第一〇六二号被控訴人・第一〇六三号被控訴人) 岩崎英雄

第一審被告(第一〇六二号控訴人・第一〇六三号被控訴人) 群馬バス株式会社

第一審参加人(第一〇六二号被控訴人・第一〇六三号控訴人) 岩崎一雄

主文

一、原判決を取り消す。

二、第一審参加人が第一審被告会社株式二百五十株(亡岩崎てる名義のろ第二十四ないし第二十八号十株券五枚及びは第十三、第十四号百株券二枚)の株主であることを確認する。

三、第一審原告及び第一審被告は右株式につき第一審参加人のため名義書換手続をせよ。

四、第一審原告は第一審参加人に対し右株券を引き渡せ。

五、第一審原告の請求を棄却する。

六、訴訟費用は第一、二審を通じ、参加によつて生じた部分は第一審原告及び第一審被告の負担とし、その他の部分は第一審原告の負担とする。

事実

第一審被告代理人は、昭和二九年(ネ)第一、〇六二号事件につき、「原判決中第一審原告に関する部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一審原告の負担とする。」との判決を、昭和二九年(ネ)第一、〇六三号事件につき、控訴棄却の判決を求めた。

第一審参加人代理人は、昭和二九年(ネ)第一、〇六三号事件につき主文第一ないし第四項及び第六項同旨の判決を求めた。

第一審原告代理人は、昭和二九年(ネ)第一、〇六二号及び第一、〇六三号事件につき、いずれも控訴棄却の判決を求めた。

各当事者の主張の要旨は、左記の外は、原判決の事実に記載するところと同一であるから、これを引用する。

第一審参加人代理人は次のように述べた。(一)、第一審参加人はその請求の原因として第一次に、原判決の事実に記載するように本件株式の仮装譲渡の無効を主張するものであつて、その仮装譲渡は第一審参加人に対する相続税の軽減を図るためと、当時第一審原告先代岩崎てるが第一審被告会社に雇われ、名義上だけでも第一審被告会社の株主であることがその職員として便宜であつたので、その便宜を図るためになされたものである。(二)、仮りに右主張が理由ないとすれば、第一審参加人は第二次に、本件株式の信託的譲渡の解約を主張する。すなわち第一審参加人の法定代理人岩崎か免は、前記の如き第一審参加人に対する相続税の軽減とてるの第一審被告会社職員としての便宜を図る目的で本件株式を同人に信託的に譲渡したものであつて、てるの死亡直前既にその信託の目的もなくなつたので、第一審参加人は右信託的譲渡を解約した。(三)、仮りに右主張が理由ないとすれば、第一審参加人は第三次に、本件株式の返還契約の成立を主張する。すなわち第一審被告会社の社長鈴木国彦派と岩崎半之助派との間に第一審被告会社に対する支配権をめぐつて紛争が生じたところ、これにつき昭和二五年五月一日第一審被告会社の代理人島岡利二と半之助の間に第一審被告会社の資産分割に関する和解契約が成立したが、右和解契約において右紛争の勝敗に影響ある本件株式の帰属についても、島岡利二は第一審参加人を代理し、半之助は第一審原告を代理して、本件株式は第一審原告からこれを第一審参加人に返還すべきことを約した。仮りに右事実が認められないとしても、てるは生前第一審参加人に対し、半之助が同意すれば何時でも本件株式を返還すべきことを約していたところ、半之助は前記和解契約においてその返還に同意したから、条件の成就によつててると第一審参加人との間の右返還契約は効力を生じた。第一審参加人は右のいずれかの返還契約に基き本訴請求をするものである。

第一審原告代理人は次のように述べた。第一審参加人の当審における主張事実のうち、第一審被告会社の社長鈴木派と半之助派との間に第一審参加人主張の如き紛争があり、昭和二五年五月一日第一審被告会社の代理人島岡利二と半之助との間に第一審参加人主張の如き和解契約が成立したことは認めるが、その他の事実は争う。

各当事者の立証及びその認否は、左記の外は、原判決の事実に記載するところと同一であるから、これを引用する。

〈立証省略〉

理由

本件は要するに、第一審原告は、岩崎てる名義の第一審被告会社株式二五〇株(ろ第二四ないし第二八号一〇株券五枚及びは第一三、第一四号一〇〇株券二枚)(本件株式という)は第一審原告がてるから相続により承継したものであると主張し、第一審参加人は、第一次の請求原因として、本件株式は第一審参加人が岩崎〆吉から相続により承継した後てるにこれを仮装譲渡したものであると主張し、第一審被告会社は、第一審参加人の主張事実を認め、第一審原告の主張事実を争うのであるが、甲第一号証、甲第五、第六号証の各一ないし七、甲第八、第九号証、乙第一号証、丙第一、二号証、丙第三、第四号証の各一、二(以上はいずれも各当事者間においてその成立に争がない。)、甲第二一号証の一ないし六(当審証人岩崎半之助の証言によりその成立を認める。)、丙第二号証(第一審参加人と第一審被告会社との間ではその成立に争がなく、第一審参加人と第一審原告との間では当審証人畑祥一及び同岩崎か免の証言によりその成立を認める。)、丙第七号証の一ないし三、丙第八号証の二、七ないし一一(以上いずれも第一審参加人と第一審被告会社との間ではその成立に争がなく、第一審参加人と第一審原告との間では当審証人岩崎か免の証言によりその成立を認める。)、丙第一一号(当審証人岩崎か免の証言によりその成立を認める。)、原審及び当審証人岩崎か免同閑野幸次郎(原審は第一、二回)の証言、原審証人土岐喜美江、同上村いく、同島岡利二(第一、二回)の証言、当審証人高橋政太郎、同満島兼一、同菅沼利雄、同小林熊次郎の証言、原審及び当審証人岩崎半之助(原審は第一回)、同畑祥一の証言の一部並びに原審における第一審参加人本人及び第一審被告会社代表者鈴木国彦本人の供述を総合すると、次のような事実が認められる。

すなわち、上毛中央自動車株式会社は昭和四年六月七日設立された、旅客自動車運送業を目的とする資本金一五万円、一株の金額五〇円、株式総数二、七〇〇株の株式会社であつて、社長の岩崎〆吉が一、四〇五株、専務取締役の岩崎半之助が七七四株、〆吉の妻か免が二五株、半之助の妻キヌが八〇株、〆吉の妹で半之助の姉にあたるてるが一五株、高橋政太郎外一六名が残り合計四〇一株を有していたいわゆる同族会社であつたが、戦時下企業整備の国策による群馬県当局の勧告に従い、上毛自動車株式会社、満島商事合資会社その他の同業者と企業合同をすることになり、右同業者等がそれぞれ有する車輛及び路線権を現物出資した外、〆吉及び半之助が株式を引き受けて、昭和一七年五月三〇日資本金八〇万円、一株の金額五〇円、株式総数一六、〇〇〇株の第一審被告会社が設立され、〆吉が取締役会長に半之助が社長に就任した。(設立当初の商号は群馬合同バス株式会社と称したが、昭和二一年二月一九日現在の商号に改められた。)第一審被告会社の設立に伴い上毛中央自動車株式会社はその翌日たる昭和一七年五月三一日解散し、〆吉及び半之助の両名がその清算人に就任した。第一審被告会社の設立にあたつては、できるだけその経営の実際に携る者を株主とする方針がとられたので、〆吉と半之助とは相謀つて、上毛中央自動車株式会社の解散に先立ち、同人等夫妻の有する以外の同会社株式はすべて両名が買収し、その結果同会社株式は〆吉が一、六一三株、か免が二五株(〆吉家の持株合計一、六三八株)、半之助が九八二株、キヌが八〇株(半之助家の持株合計一、〇六二株)を有することとなつた。

かくしててるが有した上毛中央自動車株式会社株式一五株も〆吉あるいは半之助のいずれかによつて買収されたが、同会社がいわゆる同族会社であつた関係などから、その株式名義は書換の手続が行われないで、てる名義のまま放置された。上毛中央自動車株式会社の現物出資(その価格三五万円)により同会社に与えられた第一審被告会社株式は本件株式のうち二〇〇株(前記一〇〇株券二枚)を含む七、〇〇〇株であつて、〆吉の株式引受により同人が取得した第一審被告会社株式は本件株式のうち五〇株(前記一〇株券五枚)を含む一、五五〇株であつた。〆吉は昭和一八年一月一四日死亡し、その家督相続により第一審参加人は〆吉の有した第一審被告会社株式一、五五〇株及び上毛中央自動車株式会社株式一、六一三株を承継した。昭和一九年六月清算会社である上毛中央自動車株式会社はその持株たる第一審被告会社株式七、〇〇〇株を各株主に分配することとなつたが、当時第一審参加人(大正一四年八月二三日生)の親権者であつた母のか免は、〆吉の死亡により上毛中央自動車株式会社の唯一の清算人となつた半之助から同会社の有する第一審被告会社株式は〆吉家と半之助家とが折半すべきことを申し出でられ、やむなくこれを承諾した結果、第一審参加人はか免と共に、上毛中央自動車株式会社から、(同人等の有する同会社株式の数にかかわらず)両名分として、同会社の持株たる第一審被告会社株式のうちその二分の一にあたる三、五〇〇株(本件株式のうち前記二〇〇株を含む)の分配を受けた。その際か免は半之助の勧めに従い、第一審参加人の有する第一審被告会社株式の一部を第一審参加人から亡父〆吉の妻子に贈与し、一部はその株式名義のみを他人に移して第一審参加人の負担すべき相続税の軽減を図るため、てるに二五〇株、半之助及び同人の女婿畑祥一に各二〇〇株を仮装譲渡することとした。第一審被告会社株式をてる名義に書換えることについては、当時てるが第一審被告会社に雇われ、経理係として勤務していたので、名義上だけでも第一審被告会社の株主となることは、その職員として何かと便宜であろうと言うことも考慮された。それらのことは直ちに祥一の承諾を得、次いでてるの承諾も得た。当時第一審参加人が上毛中央自動車株式会社から分配を受けた第一審被告会社株式についてはもちろん、それより以前家督相続により〆吉から承継した第一審被告会社株式についても、まだ第一審参加人に名義書換が終つていなかつたので、第一審参加人からてる等三名に対する仮装譲渡による第一審被告会社株式の名義書換は上毛中央自動車株式会社又は〆吉から直接にてる等三名にし、なお譲渡の日附を故意に逆のぼらせて、外部に対しその真実性を装うこととした。このようにして、第一審参加人の有する第一審被告会社株式のうち、前記五〇株(本件株式について昭和一七年一〇月一五日附で〆吉からてるに、前記二〇〇株(本件株式)について昭和一八年一〇月三〇日附で上毛中央自動車株式会社からてるに名義書換をし、また昭和一七年一〇月二四日附で上毛中央自動車株式会社から〆吉及び祥一に各二〇〇株の名義書換をし、その旨株主名簿及び株券に記載されたが、株券はてる等三名に引き渡されず、第一審参加人方に保管された。しかるところ財産税法が制定実施されることとなり、半之助及び祥一は、いずれもその財産が一〇万円を超え、従つて前記仮装譲渡により同人等名義となつている第一審被告会社株式まで同人等に対する財産税の課税対象に加えられることになるので、昭和二〇年一二月第一審参加人に対し、右株式名義を財産申告前に第一審参加人に戻すことを申し出で、同月三〇日その書換手続が行われた。しかしてるは、その財産が本件株式を加算してもなお一〇万円を超えず、財産税を課せられることにならなかつたので、本件株式はてる名義のままとし、てるの財産として証紙の貼附等申告手続をする必要から、昭和二〇年末頃あるいは翌二一年初頃第一審参加人は本件株券をてるに引き渡した。その後第一審参加人は自ら又はか免を通じてるに本件株式の返還を求めるに至つた。当時既に第一審被告会社の社長を退いた半之助派と現社長鈴木国彦派との間に同会社に対する支配権をめぐつて紛争が生じ、本件株式による議決権の行使はその勝敗に少からざる影響があつたので、てるはしばしば第一審参加人その他に対し、本件株式を第一審参加人に返還すべき義務あることを認めながらも、なお半之助の姉として、本件株式が鈴木派に属していた第一審参加人に帰属することによる半之助の不利な立場を思い、第一審参加人に対し紛争が解決されるまで本件株式の返還を猶予するよう求めて、第一審参加人の請求に応じないでいるうちに昭和二四年一二月一五日死亡するにいたつた。

なお、本件株式に対する利益配当金(第一及び第二期分は不明の第三及び第四期分(昭和一九年三月一日から昭和二一年二月末日まで)はか免が第一審被告会社から受け取り、その後足利銀行を通じて支払われた第五ないし第七期分(昭和二一年三月一日から昭和二四年二月末日まで)はてるが受け取つた後第一審参加人方にこれを持参した。第八期分(昭和二四年三月一日から昭和二五年二月末日まで)は第一審原告が昭和二五年八月一一日てる名義で受け取つているが、それはてるの死亡後であり、本件訴訟提起後のことである。

以上の事実が認められる。甲第二二ないし第二五号証の記載内容、原審及び当審証人岩崎半之助、同畑祥一の証言、原審証人芳沢キヨ、同岩崎とり子、同佐藤彦四郎及び当審証人木檜三四郎の証言並びに原審における第一審原告本人の供述のうち以上の認定に反する趣旨の部分は採用しない。その他の証拠によつては以上の認定を覆すに足りない。

以上の事実によると、てるはかつて上毛中央自動車株式会社株式一五株の株主であつたが、同会社が解散する以前既に同会社の株主でなく、従つて同会社の持株たる第一審被告会社株式の分配を受けたことがないこと、第一審参加人は〆吉の死亡による家督相続により同人の有した上毛中央自動車株式会社株式と共に本件株式のうち前記五〇株を含む第一審被告会社株式を承継し、その後上毛中央自動車株式会社から同会社の持株たる本件株式のうち前記二〇〇株を含む第一審被告会社株式の分配を受けて、本件株式を取得するにいたつたが、第一審参加人の法定代理人か免が第一審参加人に対する相続税の軽減と第一審被告会社職員としてのてるの便宜を図る目的で、てると相通じて、真実本件株式を譲渡する意思がなく、単にその株式名義のみを同人とするために、これをてるに仮装譲渡したものであつて、従つてその譲渡は無効であることが明らかである。

してみると、本件株式の元の株主がてるであつたことを前提とする第一審原告の本訴請求は、その他の判断をするまでもなく、失当として棄却すべきである。

前掲甲第一号証によると、第一審原告はてるの唯一の相続人であるから(このことについては第一審原告と第一審被告会社との間では争がない。)、てるの死亡による相続により、同人の本件株式に対する権利義務を承継したものというべく、且つ第一審原告が本件株券を現に所持することは第一審原告の認めるところである。故に第一審参加人が第一審原告に対し、本件株式の株主であることを確認を求めると共にその名義書換手続と本件株券の返還を求める本訴請求及び第一審参加人が第一審被告会社に対し、本件株式の株主であることの確認を求めると共にその名義書換手続を求める本訴請求は、その他の判断をするまでもなく、正当として認容すべきである。

よつて、第一審原告の請求を認容し、第一審参加人の請求を棄却した原判決は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第九四条第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田豊)

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